オムライス

 

父は小さな喫茶店をしていた。

 

 

必要なものだけしか置いていない。

とても殺風景な店だ。

 

 

厨房には小さなトランジスタラジオ。

それは父の傍らでいつも音を奏でていた。

 

 

 

 

ある日、父が倒れた。

 

 

 

厨房には音のならないラジオ。

 

父の帰りを待っているかのような静寂。

 

 

 

店の常連客からは、いつ再開するのかと、

心配と応援の手紙がいくつも届いていた。

 

 

 

その店を家族会議の結果、継ぐことになった僕。

 

まだ目の覚めない父の傍らに座り、小さな声で報告した。

 

 

 

 

料理なんて一度もしたことがない。

 

先の見えない僕を横目に、話だけは前へ前へ進んでいく。

 

 

 

 

ある日、父がいつも聞いていたラジオをつけた。

 

  

すると何かを焼く美味しそうな音が聞こえてきて、匂いもしてきた。

 

 

 

 

それは、店で一番人気のオムライス。

 

 

ラジオから聞こえる音と匂いだけを頼りに、僕は作り始めた。

 

 

 

厨房にはオムライスを焼く音が響くラジオ。

 

でも、ラジオから聞こえる音と、どこか違う。

 

 

 

来る日も、来る日も作った。

何度も、何度も練習して失敗もしながら。

 

 

 

 

ある日、ラジオから聞こえる音と同じ音になった。

 

 

 

  

 

同じ音が出せたとき、父のオムライスの味になった。